がある


舗道をまっすぐ行った正面には二階建ての本部建物がある。一階には食堂と大きな浴場、二階には講堂といくつかの集会室、それから何に使うのかは知らないけれど貴賓室まである。本部建物のとなりには三つめの寮棟がある。これも三階建てだ。中庭は広く、緑の芝生の中ではスプリンクラーが太陽の光を反射させながらぐるぐると回っている。本部建物の裏手には野球とサッカーの兼用グラウンドとテニス?コートが六面ある。至れり尽せりだ。
  この寮の唯一の問題点はその根本的なうさん臭さにあった。寮はあるきわめて右翼的な人物を中心とする正体不明の財団法人によって運営されており、その運営方針は――もちろん僕の目から見ればということだが――かなり奇妙に歪んだものだった。入寮案内のパンフレットと寮生規則を読めばそのだいたいのところはわかる。「教育の根幹を窮め国家にとって有為な人材の育成につとめる」、これがこの寮創設の精神であり、そしてその精神に賛同した多くの財界人が私財を投じ……というのが表向きの顔なのだが、その裏のことは例によって曖昧模糊としている。正確なところは誰にもわからない。ただの税金対策だと言うものもいるし、売名行為だと言うものもいるし、寮設立という名目でこの一等地を詐欺同然のやりくちで手に入れたんだと言うものもいる。いや、もっともっと深い読みがあるんだと言うものもいる。彼の説によればこの寮の出身者で政財界に地下の閥を作ろうというのが設立者の目的なのだということであった。たしかに寮には寮生の中のトップ?エリートをあつめた特権的なクラブのようなものがあって、僕もくわしいことはよく知らないけれど、月に何度かその設立者をまじえて研究会のようなものを開いており、そのクラブに入っている限り就職の心配はないということであった。そんな説のいったいどれが正しくてどれが間違っているのか僕には判断できないが、それらの説は「とにかくここはうさん臭いんだ」という点で共通していた。

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