「でもとにかくそういうのが好きなんだね?」と彼は言った。
「別に好きじゃないよ」と僕は言った。
その答は彼を混乱させた。混乱するとどもりがひどくなった。
僕はとても悪いことをしてしまったような気がした。
「なんでも良かったんだよ、僕の場合は」と僕は説明した。
「民族学だって東洋史だってなんだって良かったんだ。
ただたまたま演劇だったんだ、気が向いたのが。
それだけ」しかしその説明はもちろん彼を納得させられなかった。
「わからないな」と彼は本当にわからないという顔をして言った。
「ぼ、僕の場合はち、ち、地図が好きだから、ち、ち、ち、地図の勉強してるわけだよね。
そのためにわざわざと、東京の大学に入って、し、仕送りをしてもらってるわけだよ。
でも君はそうじゃないって言うし……」
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