にはピンナップさえ貼られてはいなかった。
そのかわりアムステルダムの運河の写真が貼ってあった。
僕がヌード写真を貼ると「ねえ、ワタナベ君さ、ぼ、ぼくはこういうのあまり好きじゃないんだよ」と言ってそれをはがし、
かわりに運河の写真を貼ったのだ。
僕もとくにヌード写真を貼りたかったわけでもなかったのでべつに文句は言わなかった。
僕の部屋に遊びに来た人間はみんなその運河の写真を見て「なんだ、これ?」と言った。
「突撃隊はこれ見ながらマスターベーションするんだよ」と僕は言った。冗談のつもりで言ったのだが、
みんなあっさりとそれを信じてしまった。
あまりにもあっさりとみんなが信じるのでそのうちに僕も本当にそうなのかもしれないと思うようになった。
みんなは突撃隊と同室になっていることで僕に同情してくれたが、
僕自身はそれほど嫌な思いをしたわけではなかった。
こちらが身のまわりを清潔にしている限り、彼は僕に一切干渉しなかったから、
僕としてはかえって楽なくらいだった。掃除は全部彼がやってくれたし、布団も彼が干してくれたし、
ゴミも彼がかたづけてくれた。
僕が忙しくて三日風呂に入らないとくんくん匂いをかいでから入った方がいいと忠告してくれたし、
そろそろ床屋に行けばとか鼻毛切った方がいいねとかも言ってくれた。
困るのは虫が一匹でもいると部屋の中に殺虫スプレーをまきちらすことで、
そういうとき僕は隣室のカァ」の中に退避せざるを得なかった。
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