昔々、といってもせいぜい二十年ぐらい前のことなのだけれど、




僕はある学生寮に住んでいた。僕は十八で、大学に入ったばかりだった。




東京のことなんて何ひとつ知らなかったし、一人ぐらしをするのも初めてだったので、親が心配してその寮をみつけてきてくれた。




そこなら食事もついているし、いろんな設備も揃っているし、世間知らずの十八の少年でもなんとか生きていけるだろうということだった。



もちろん費用のこともあった。寮の費用は一人暮しのそれに比べて格段に安かった。



なにしろ布団と電気スタンドさえあればあとは何ひとつ買い揃える必要がないのだ。




僕としてはできることならアパートを借りて一人で気楽に暮したかったのだが、




私立大学の入学金や授業料や月々の生活費のことを考えるとわがままは言えなかった。





それに僕も結局は住むところなんてどこだっていいやと思っていたのだ。





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